今回は「アレッシィショップ 青山」のマネージャー・山本さんに、アレッシィの歴史や人気商品にまつわるエピソードなどをお聞きしました。
※アレッシィ青山店は2018年で残念ながら閉店しています。
ALESSI(アレッシィ)の始まりから現在まで
創業初期はデザインのデの字もなかった
出典:アルベルト・アレッシィ『ドリームファクトリー』
アレッシィは、もともと金属加工の職人をやっていたジョバンニ・アレッシィが、兄弟とともに1921年にイタリア・オメーニャ市で金属加工の工房を作ったのがブランド設立のはじまりです。
その当時作っていたのは一般的な家庭用品です。例えば、トレーやティーセット、シュガーポットといった金属製品を主に作っていました。いまではデザインブランドとしてアレッシィは知られていますが、創業初期はデザインのデの字もなかったような会社だったのです。
アレッシィに樹脂素材を使ったアイテムのイメージを持たれている方もいらっしゃるかと思いますが、この時代に金属加工の技術を積み重ねてきたので、本来のアレッシィは金属加工に一番自信がある会社です。
サルバドール・ダリの作品を大量生産して売ろうとした3代目
出典:アルベルト・アレッシィ『ドリームファクトリー』
1970年に初代社長の孫、アルベルト・アレッシィが入社します。のちに3代目社長になるアルベルトが、現在のアレッシィのイメージを作るきっかけになります。彼はアートやデザインがとても好きで、自分のプロジェクトをいろいろ立ち上げました。
アルベルトが行った初めてのプロジェクトは、「増殖する芸術」というものです。その頃の芸術作品はお金持ちしか持てないものでした。アルベルトは、彫刻家や画家といった芸術家の作品を大量生産して価格帯を落とし、一般に広く流通させることで、芸術の大衆化ができるのではないかと考えました。
そのプロジェクトでは、あのサルバドール・ダリも巻き込んで、ダリの作品を手頃な価格で販売しようとしていました。3年くらい試行錯誤したものの、結果的にうまくいかずにそのプロジェクトは中止になってしまいましたが、「おもしろいことをやろうとしているアレッシィ」という存在がデザイナーたちの目に留まり、そのあたりからデザイナーたちとのつながりができていったようですね。
アートと日用品の間にあるアレッシィ
出典:アルベルト・アレッシィ『ドリームファクトリー』
アレッシィは、アートピース(芸術作品)と日用品の中間にあるアイテムを作っているブランドです。見ても使ってもおもしろい、ちょっとした行為も笑顔になるような、ユーモアと楽しさをご家庭に届けていることが、他のブランドにはないアレッシィの強みだと思います。
そういう意味でいうと、ドイツや日本のブランドとは違うかもしれません。例えば、使い勝手やお手入れのしやすさといった機能性と、ユーモアやデザインといったものがもし相対したとき、どちらを取るかといったら、アレッシィは間違いなくデザインとユーモアを取りますね。
ALESSI(アレッシィ)で定番人気の名作アイテム
近未来なフォルムの目覚まし時計「OPTIC(オプティック)」
オプティックという近未来的な形がおもしろい置き時計は、1970年にリチタローラ社から発表され、1988年にアレッシィが復刻しました。この時計をデザインしたジョエ・コロンボは、ミッドセンチュリーを象徴するようなデザイナーです。彼は32歳でデザイン事務所を立ち上げて、41歳で亡くなるまでの短いあいだに、名作と言われるプロダクトをたくさん作りました。そのなかのひとつがこの置き時計です。
ユーモアがありながら機能的なプロダクトを作るのが、コロンボのおもしろいところです。短針のところに穴が空いているのは、月の満ち欠けのように、いまどれくらい時間が進んでいるか感覚的にわかるようにするためです。また、分針を表すために1から60まで文字盤を打っていますが、これは分針のサイズに合せてデザインされています。
後ろの穴を使えば吊り下げて壁掛け時計としても使えます。置き時計としては、水平にも置けますし、ちょっと後ろに傾けて斜めにも置けます。ですので、自分より視線が下のところにも置くことができます。
見た目のおもしろさだけじゃなくて、機能面もちゃんと考えられているところがコロンボらしいなと思いますね。
50年選手の掛け時計「FIRENZE(フィレンツェ)」
大理石ベースのあのアルコランプで有名な、アッキーレ・カスティリオーニによる掛け時計「フィレンツェ」です。1965年にデザインしてもう50年以上経っていますが、いまでも売れ筋の商品ですね。なにより視認性が高くて、すごくシンプルな作りです。このシンプルさはアレッシィの掛け時計としては、とても珍しい部類に入ります。
直径36センチという大きさは、日本の一般的な掛け時計よりは大きいかもしれません。ですが、とても薄いので圧迫感がありません。どんなお部屋にも合わせやすいと思います。個人的には、イタリアのブランドらしく、せっかくならブルーで遊びのある色を選んで、お部屋のアクセントにしても楽しいと思います。
一番人気のやかん「Bird Kettle(バードケトル)」
1985年に発表されたケトル、通称「バードケトル」です。アレッシィにヤカンは何種類かありますが、このバードケトルは群を抜いて売れています。販売されて30年間も売れ続けているのは、やはり使い勝手がいいのかなと思います。円錐形のフォルムはデザイン性というよりは実用性を考えて作られていて、底の火に当たる部分は表面積を広く取って、お湯が早く湧くようになっています。
沸騰すると小鳥のホイッスルがピーっと音を鳴らして知らせてくれます。お湯が湧く音ひとつでも日常が楽しくなるようなヤカンですね。
この作品はアメリカの建築家、マイケル・グレイヴスの作品です。彼がつくる建築は、青と赤の独特な色使いをよく用います。バードケトルのオリジナルカラー「ライトブルー」も、グレイヴスらしいカラーリングですね。
ちょっと建築の話になりますが、コルビュジエを代表とする、あまり装飾をせず機能に即した建築を良しとたのが「モダニズム」なのですが、そのカウンターとして、もっと自由にやろうという風潮が1980年代の「ポストモダン」です。
グレイヴスはこのポストモダンを代表する建築家のひとりでした。だから、ヤカンひとつ作るにしても、鳩をつけたり、丸い取っ手にしてしまったりと、とても自由です。このバードケトルは、ポストモダンらしさ、マイケル・グレイヴスらしさがとても表れている作品ですね。そういった意味でも、ポストモダン時代の建築がお好きな方はこのバードケトルはおすすめです。
グラスを再定義した「Glass Family(グラスファミリー)」シリーズ
ジャスパー・モリソンによるグラスファミリーシリーズは、シンプルさのなかに多くのこだわりが詰まっているグラスです。
彼がデザインテーマに掲げている「スーパーノーマル」は、普通を突き詰めた先にある普通とは何か?ということ。普通を考え抜いて、再定義して再提案するのが、彼のスタイルです。
2008年に発表されたこのグラスファミリーシリーズでも「普通のグラスって何?」というデザインアプローチで、グラスというものを再定義しています。例えば、このレッドワイングラスはステム(脚)がありませんが、赤ワイングラスです。
そもそも、なぜ赤ワイングラスに脚がついているかというと、なかのワインに体温を伝えないほうが美味しいからですよね。もちろんこれは正解ですが、家でカジュアルに飲むときに、テーブルに置き損じて倒して割ってしまうかも……と気にせずに、気楽に飲めるのはどんな形か?リラックスして飲む自宅用の赤ワインをジャスパー・モリソンが再定義したらこの形になりました。
それだけではなく、グラスの底は厚くなっていて、唇に当たる部分にいくほど薄くなっています。これはグラスを安定して置けて、飲むときには存在感を隠すための工夫です。グラスファミリーシリーズにはこの他にも、白ワイングラスやウォーターグラスなどもあります。
ギフトの定番「BIG LOVE(ビッグラブ)」アイスクリームスプーン
ミリアム・ミッリがデザインしたアイスクリームスプーンは、ハーゲンダッツのプロモーションキャンペーンで2002年に作られました。販売当初はカップとのセット販売でしたが、スプーンの方があまりにも人気のため、スプーンだけでもお求めできるようになりました。
これはビッグラブという名前ですが、カップにアイスを入れて、ハート型のスプーンで恋人同士で食べましょうというラブラブなアイテムです。コンセプトやデザインのわかりやすさが人気で、プレゼントやご結婚のお祝いにされる方が多いですね。
オウムのソムリエナイフ「Parrot(パロット)」
パロットは2005年に発表された、オウムの形をしたユニークなデザインのソムリエナイフです。ソムリエナイフの機構自体は、スペインでプロ向けのソムリエナイフを作っているプルテックス社にお願いしています。
デザインを担当したアレッサンドロ・メンディーニは、ポストモダン時代の代表的なデザイナーで、モノの形から擬人化やキャラクター化させるのが非常に巧みです。
カラーバリエーションにある「プルースト」は、メンディーニがよくモチーフにしている柄ですね。アレッシィに限らず、他のブランドでもこのプルースト柄は使われています。
栓を開けたワインボトルにこのナイフを引っ掛けると、オウムが留まっているように見えるので、個人的にとても気に入っています。
ロングセラーのワインオープナー「Anna G.(アンナG.)」
アレッシィといえば「アンナG」が頭に浮かぶ方も多い、1994年発売後すぐに世界中で大ヒットしたワインオープナーです。
先ほどご紹介したソムリエナイフと同じ、アレッサンドロ・メンディーニがデザインしていますが、彼が従来のシンプルなワインオープナーを見ていて、バレリーナが手足を広げてダンスしているようなイメージを受けてデザインをした……というのが表向きの理由です。
これは噂ですが、このワインオープナーの「アンナG」という商品名は、当時付き合っていた彼女(Anna Gili=アンナ・ジリ)の名前です。彼女はアレッシィでプロダクトデザインをしたこともあるデザイナーで、その彼女をイメージして作ったという逸話があります。
メンディーニはアンナGを作ったあとに、「アレッサンドロM」という男の子型のワインオープナーを作りました。これはメンディーニ本人の名前ですね。そして彼は、彼女より背が低かったのです。だからこのアレッサンドロMはアンナGよりも小さくなっています。このような細かいところもしっかりデザインされています(笑)
アレッシィ青山店はタダで見られる美術館
※アレッシィ青山店は2018年で残念ながら閉店しています。アレッシィのアイテムは3000くらいありますが、青山店ではだいたい1000アイテムを常時ディスプレイしています。定期的に入れ替えて、すべてのアレッシィ商品を見てもらえるように心がけています。
理想を言うと、私はこの青山店が「タダで見られる美術館」になればいいかなと思っています。実際に世界の美術館で収蔵されている製品がアレッシィには多数あります。
いまの時代、実店舗で買わない方もいらっしゃいます。もちろんお客様のベストな買い方で買ってくださればいい。では、このお店がなくなってもいいかというと決してそうではなくて、気軽にお店に来ていただいて、世界の美術館にコレクションされているものをご覧いただきたいと思っています。
美術館に行っても作品に触れることはできませんが、アレッシィでは実際に手に取って触っていただけます。もし気に入っていただければ、その場で買うこともできます(笑)
このようにアレッシィ青山店を楽しんでいただければ。こういう体験は他ではなかなかできないことだと思います。
モノにまつわる物語を知れば、もっと好きになる
アレッシィ製品だけでなく、デザインや建築全般の知識が豊富な山本さん。今回ご紹介していないアイテムに関するエピソードも詳しく教えてくださいました。
「来店されるお客様とは、やはり商品の機能面や使い勝手などの話になってしまうことが多いですね。でもアレッシィはデザインブランドなので、デザインに関する話やデザイナーにまつわるエピソードはたくさんあります(笑)」と、山本さんはいいます。
ものを選ぶうえで、機能や使い勝手などはもちろん大事なポイントですが、背景にあるエピソードも知ることができたら、選択の幅はもっと広がりますよね。アレッシィで長く愛されている名作たちには、誰かに話したくなるようなエピソードにあふれていました。
撮影:inzak編集部
※アレッシィ青山店は2018年で残念ながら閉店しています。